HAW

様々な分野で活躍中の方々に、仕事について、生き方について、お話を伺うインタビューシリーズ

vol.1 2018.7.25

イラストレーター《 森 絵麻さん 》インタビュー

初回は、HAWのメインビジュアルを描いていただいたイラストレーターの森絵麻さん。イラストレーターとして活動を始めて6年になる彼女に、仕事について、生き方について、いろいろと伺いました。

自然と自分のそばにあったこと

「両親が美大出身で、二人とも絵を描くのが好きで、その影響でわたしも小さい頃から絵をいっぱい描いていました。4人姉弟みんなで父の顔を描いて、それを父に講評してもらったり。母も近所の幼稚園の近くで造形教室を開いていて、私たちも一緒に参加してロウソクを作ったり、工作をしたりしていました。だから自然に絵を描いたり、何かを作るということが好きだったんだと思います。」

そう話す森さんのイラストは、どこか子供の絵のような自由さを感じる。建築家の父、美術家だった母のもと、当たり前のように表現することが身近にあった子供時代の記憶が絵に現れているようだ。
ファッショナブルで、落書きのようなフリーな印象の手描きのラインが特徴的。あえてラフに描くことを心がけているという。ちょっと力を抜いた感じの線が心地よい。

やりたいことは、たぶん、ずっと、はっきりしていた

「中学、高校では美術部に入っていました。とにかく美術が楽しかった。高校の卒業アルバムに、将来の夢はグラフィックデザイナーと書いていました。子供の頃はあんまり考えていなかったけど、きっとずっとそういうことをやりたかったんだろうな。」

森さんは6年のイギリス滞在経験があり、英語が堪能だ。高校の頃には、将来の夢をグラフィックデザイナーと書いていたはずが、実際には語学の方に目が向いていたという。

「高校卒業後の進路を考え始めたときは、英語が一番で。自分の英語力に自信を持っていたから、それを極めたいと思っていたんです。大学は4年制ではなくて、短大を選びました。短大を卒業したらすぐに留学したいと考えたんです。2年間しっかり学んだ英語を使って、海外で美術をやりたいなと。よしこれでやりたいことを両方できる!と。」

実際に上智の短期大学に進み、卒業後の未来を見据えて2年間を過ごした。そんな中、幸運なことに、東京にセントラル・セント・マーティンズが面接に来るという情報を得て、すぐに面接を受ける。
「作品らしいものはあまりなかったんですけどね。友達に頼まれたイベントのフライヤーのイラストとか、今まで描いたものを持って行きました。大学に行く前のファンデーションコースという1年間のコースがあるんですけど、その面接だったんです。」
その場で合格の書類をもらい、短大卒業後、単身イギリスへと渡った。

イギリスでの生活

森さんが通い始めたセントラル・セント・マーティンズは、著名なデザイナーを輩出しているロンドン芸術大学の一つ。アートとデザインの科目を幅広く提供するカレッジとして、イギリスのアート&デザイン教育を牽引する存在だ。

「学校は全部で4年間。1年目のファンデーションコースでは美術全般をやって、大学に入ってからはグラフィックデザイン科に行きました。イラストレーションも含まれていたので、そこから専門でやり始めたんです。科自体はとても自由で、何をやってもよくて、歌っている人もいたし、映像を作っている人もいて。毎日がほんとに面白かったです。先生からスケッチブックをいつも持ち歩くようにと厳しく言われて、それをずっと守っていました。気になるものを見つけたらよくカフェなんかで描いていましたね。」
最初の頃描いていた絵は今のタッチとは全然違ったもので、自信を持って描いたものでも先生に酷評されたという。様々な意見、シルクスクリーンなどの表現方法を習得する中で、だんだんと今のタッチに近づいていったようだ。

学校の他には意欲的に飲食店のアルバイトなどを経験。学校生活とはまた違う、刺激的で良い経験ができたと話す。
「はじめは日本食レストランでアルバイトをしていました。そこで日本人の友達もできてよかったんですけど、もうちょっと英語を使った仕事をしたいなと思って。そんな時、近所にコーヒーショップがオープンするという看板を見つけて、あ、これだ!と思ってすぐに連絡したんです。帰国するまでずっとそこで働きました。仕事を通して現地の人やいろんな国の人とたくさん触れ合えて、毎日刺激的だったし、良い勉強になりましたね。」

卒業後はイギリスで就職活動をするものの、なかなかうまくいかず、ビザが切れるタイミングを区切りに帰国することにした。

デザイナーとして

「久しぶりに帰ってきた日本は「異国」でした。すべてがごちゃごちゃしていて、すべてが違っていて、すごく新鮮だった。だから周りから見ると少し浮いていたかもしれないです。」

帰国してすぐに就職活動を開始。ここでもやはりノウハウがなく、困難な日々が続いた。
「グラフィックデザイナーの求人を見つけては、ポートフォリオを持って、いろんな会社を回りました。でもイラストしか作品がなかったし、デザインの経験もなかったのでなかなか決まりませんでした。手探りのまま1年間ぐらい仕事探しを続けたある日、面接してもらった会社でアルバイトとして採用してもらえたんです。デザイナーのアシスタント業務でした。」

「はじめは緊張しましたね。毎日新しいことだらけ、わからないことだらけで。同い年だけど先輩のデザイナーに初歩の初歩的なことをきいたりして、なんとかやっていました。自分の能力が追いつかなくて徹夜したり、体力的に大変なこともありましたけど、やりたかった仕事に就けたことがすごくうれしかったし、総合的にとても楽しかったです。」

自分の時間を、自分らしく使う

アルバイト、契約社員を経て、正社員となり6年目に入った頃、少しずつ迷いや悩みを持ち始める。
「体力的にも辛くなってきたというのもあるんですけど、自分よりも若い世代をターゲットとした仕事だったので、求められることが自分と合わなくなってきているなと感じていて。」
そんな中、東北の地震が起きる。大きな地震は心にも大きくダメージを与えた。そして自分の生き方をきちんと考えるきっかけになったと話す。自分が本当にやりたいことは何なのか。

「フリーのイラストレーターとしてやっていく自分像が昔から漠然とあったんです。ちゃんと具体的に考えたことはなかったけど、そういう風にできたらいいなという思いがずっと。」
しばらくして会社を退社し、フリーのイラストレーターとして活動を始める。

「とにかく作品を持って営業する日々が始まりました。やっぱり今回も手探り。行った先の人に、あそこに行ったらいいよっていろいろアドバイスをもらったりして、そして実際にそこのお仕事をさせてもらうことになって。」

その仕事がきっかけで、他からも声がかかるようになっていく。5年ほどは派遣や業務委託でデザインの仕事との兼務だったが、1年前に晴れてイラストレーター1本に。
「やりたかったことを実現できたってことが、とにかくhappy、晴れやかな気分です。でも同時にフリーランスだから、収入が不安定だし、不安なこともあるけど、そこは前向きに。 自分の時間を、自分できちんと使えるようになったのも心地よくて。結婚もして、お料理も今までよりもきちんとしていきたいと思ったし、自分の理想の暮らし方、生き方に近づいたなという実感がすごくあります。」

柔軟に受け入れること

最近一番楽しかった仕事には、雑誌Numéroの仕事を挙げた。
「いつもとは違う感じで描いてみたら、新しい発見があったんです。新しい発見はよく先方のリクエストから生まれることがあって、それが面白いところ。そこからまた他のクライアントのリクエストが重なって、また新しい表現が生まれたり。柔軟に変わっていくというか、表現の幅が広がっていくのが自分でも面白いんです。」

「生きているかぎり、ずっとこの仕事をやっていたいですね。100歳まで、できるものならやっていたい。そして新しいことにいろいろとチャレンジしたいです。絵本もいつか作ってみたい。」
もしも100歳まで生きるとしたら?という質問に、イキイキと嬉しそうに答える。

非日常をたのしむ

最後に、最近一番楽しかったことは何か聞いてみた。
「タンゴの大会に夫婦で出場したことかな。実は毎年、出場しているんです。」
森さんはアルゼンチンタンゴを9年続けている。ライフワークだ。ダンスをやり始めたきっかけも彼女らしい。
「毎日がぱっとしなくて、なんか自分が今までやったことがない、やりそうにもないことをやってみたくなったんです。ダンスが趣味の同僚について、スタジオに行ってみたのがきっかけ。」
1年ほどスイングダンスをして、ある日会社帰りに偶然見つけたのがアルゼンチンタンゴのスタジオだった。

「仕事で悩んでいる時、落ち込んだ時、どんな時もタンゴだけは毎週行っています。踊ることで癒されるというか。今回、大会で結果を出すことはできなかったけど、最高に楽しかったんです。ドレスを着て、メイクアップして、舞台でスポットライトを浴びて、みんなの前で踊る、ほんとに非日常。それに向けて夫婦で時間を作って集中レッスンした時間も楽しくて。もちろん、また来年も出場するつもりです。」

自分らしくいられること

「自分らしくいられることっていうのが、ひとには必要なんじゃないかなと思うんです。それを大切にすることが、しあわせにつながるんじゃないかなと思います。」

森さんは、とても柔軟な人だ。それこそが彼女の一番の才能だし、魅力なのかもしれない。彼女のように、柔軟であることを見習いたいと思った。

森 絵麻(もり えま)

東京生まれ。 イギリス、セントラル・セント・マーティン、グラフィックデザイン科卒業後、グラフィックデザイナーを経て2012年イラストレーターとして活動を開始。主な仕事にCosme Kitchen、Numéro、HANAKO、Inredなど。

公式HP | www.emmamori.com